本年度は182編の応募があり、作家の玉岡かおるさんを審査委員長とする選考委員会で審査した結果、以下の応募者が入選されました。(敬称略)

 

最優秀オーツキ賞 正賞20万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

成人の部

 

優秀賞 正賞7万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞3万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

学生の部

優秀賞 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
特別賞(小・中学生対象) 正賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

サポートの部

優秀賞 正賞5万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

佳作 正賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

作詞賞 正賞5万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

総評  「希望の光」


作家 玉岡 かおる(たまおか かおる)氏

 

 このコンクールの選考に関わらせてもらうようになって以来、白杖の人によく気づくようになった。そして席を譲ったり行く方向への導きをしたり、小さな勇気を出せるようになった。文章にはそのように、人を動かす力がある。
ここに集まった作文も、どれもそういう力を持った作品だった。視覚を失いながらも決してその運命に埋もれず、暗さに閉ざされる中に希望という光を見失わない。その姿勢が尊くて、読む人を大きく動かしていくのである。
成人の部ではそうした作品が競い合った。中でも小林由紀さんの「天使の杖とともに」の文章が胸に響いた。視覚が失われていく中、白杖にささえられて向き直る景色に、何一つ当たり前のものはない、といとおしむゆかしさ。「人は意地悪をされると心がしおれる。優しさに触れれば元気で幸せになれる」の一文は、世界中で争っている人々にも読んでもらいたいと思った。
この作品と最後まで議論が別れたのがボロット・クズ・シリンさんの「私の世界を広げてくれた点字」。なにしろキルギスという遠い国からやってきて、日本語を学び点字を学び、これほどの作文を仕上げた力量には、誰もが感服。「点字は神様が与えてくれたプレゼントです」というさりげない表現の背後には、この人が重ねたはるかなる努力の総量がうかがえる気がした。
学生の部では、いつも聴いていたラジオに思い切って投稿したことから生まれたふれあいをつづった松村一輝さんの「ありがとうラジオ」が注目された。メッセージの詳細は文中にないが、顔も知らない相手との声だけの不思議なふれあいに、青年らしい感性が伝わる。
小中学生対象の特別賞には、河村真帆さんの「エンドウのしゅうかくから学んだこと」が選ばれた。観察眼にすぐれ、エンドウ豆という題材だけでよくこれだけ書けたという感嘆の声も。
サポートの部では、大高翼さんの「新しいコミュニケーション」。現役の盲学校高等部の生徒なので学生の部に入れてもと考えられたが、書かれた内容はまさしくサポート。彼自身、視覚障害がありながら、盲ろうの同級生とよりすみやかにコミュニケーションを取れるよう指点字を覚えた体験がゆたかにつづられている。
選考はどれが賞になっても異論なしとの結論で、小林さんを全体の中の最優秀賞、シリンさんを成人の部の優秀賞とした。また新たな力をいただけたことに感謝したい。

 


 

作詞賞選評 伸びやかに弾む言葉

matsumura
歌人・松村由利子(まつむら ゆりこ)氏

 

 健常者はつい、障害のある人を、弱くて守らなければならない存在のように思いがちです。けれども、作詞賞への応募作品には、明るく、はつらつと生きる姿が描かれていて、読む人の心を勇気づけてくれます。今回は特に、自らの感覚を開放して、世界と向き合った作品が多かった印象を受けました。
作詞賞を受賞した辻本唯衣さんの「思い出たくさん」は、学校生活が伸びやかに表現され、全体に言葉が弾んでいるのが魅力的です。中学生になった喜びがさまざまな場面にあふれており、期待と不安、学ぶ楽しさが大変新鮮に伝わってきます。世界が新たにひらかれる喜びは、どんな人にも共通していますが、作者が視覚障害をもっていることを知って読むと、改めて滑り台のスピード感や「ホッチキス」の手ざわりがリアルに感じられます。メロディーが加わったとき、辻本さんの言葉は、いっそう躍動感を増し、多くの人たちを元気づけてくれることと思います。
ほかには、視覚障害を乗り越えて走ったり泳いだりする喜びや、心をひらかなければ五感があっても何も感じられないことをテーマにした作品に、心を動かされました。抽象的な表現やきれいにまとまり過ぎた言葉と違い、自分の体験に基づいた言葉には力があるのだと感じさせられます。

 


 

入賞おめでとうございます

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公益財団法人 日本教育科学研究所
理事長 大朏 直人(おおつき なおと)

 

本年度も、心に響く素晴らしい作品が届けられました。
受賞された皆様に、心よりお祝い申し上げます。

 

最優秀オーツキ賞 「天使の杖とともに」 小林 由紀さん
美しい情景描写の端々から滲み出る、未来への強い意志。読んでいて何度もはっとさせられました。視力が失われていくことへの恐れや不安は如何ほどのものかと思うと、言葉になりません。しかし、そのような中でも、勇気を振り絞り、白杖とともに一歩を踏み出した小林さん。自らの行動がきっかけとなり、周囲がその勇気に応えて、手を差し伸べてくれるようになっていったのでしょう。日常の中でそっと交わされる優しさに、心が洗われる思いがしました。やがて目の前から失われていく風景に対する、切ないほどの愛おしさ。だからこそ、今目に映る風景、今の瞬間を大切にし、周囲への感謝を精一杯伝えたい、そんな優しさと強さを持っている小林さん、あなたなら大丈夫です。幸せな出会いをもたらしてくれた「天使の杖」がこれからも温かな未来へ導いてくれるよう、心から願っています。

 

成人の部
優秀賞 「私の世界を広げてくれた点字」 Bolot Kyzy Shirin(ボロット・クズ・シリン)さん
点字、日本語、マッサージの勉強に熱心に励んでおられることが文章表現の豊かさから伝わり、すばらしいと思いました。点字との出会いがボロットさんの人生を変えたことがよく伝わってきます。ボロットさんが、自らの意思で日本に渡りマッサージの勉強をするに至るまで、積極的に行動されてきたことは、誰にでも真似できるものではないと思います。ここまで努力を継続されてこられたのは、将来何になりたいかという質問に答えられなかったつらさから湧き上がってくる、夢を持ちたいという強い気持ちがあったからこそではないでしょうか。これからも、夢を持ち続け、それを叶えていってください。

 

佳作 「春の訪れ」 石井 美弥子さん
「くぎ煮」の作り方を石井さんならではの感覚で捉えられ、その詳細な表現により、「くぎ煮」を作っておられる様子が目に浮かんでくるようでした。また、感動しましたのは目が見えない中でもご自身の感覚を信じ、音と匂いを頼りにこれまでと変わらぬ「くぎ煮」を作られたという石井さんの前向きなご姿勢です。そして、きっとご家族やご友人は、石井さんによってもたらされる春の訪れを心に待ちにされていることと思います。今後もご自身の感覚とその前向きな姿勢を大切にされ、毎春ご家族やご友人においしい「くぎ煮」を届けてあげてください。

 

学生の部
優秀賞  「ありがとうラジオ」 松村 一輝さん
昨今はいわゆるSNSで見ず知らずの方と文字や写真などを通じて簡単に交流ができる時代になりました。しかしながら今もなお、深夜や早朝に働く方や屋外で働く方々など多くの人にとっては、ラジオの存在は必ずしも薄れているとは言えないですね。松村さんにとってラジオが、「一方的に聞く機器」から、思い切って番組にメッセージを送られたことを契機に、「人と人との温かいつながり」に変貌した心の様子が素直に書かれており、ドキドキしながら読ませていただきました。ラジオという媒体を通じた肉声による会話は文字によるやり取りに比べ圧倒的にその心の内が読み取れたのでしょう。ラジオのパーソナリティの方からは、予想された激励の言葉ではなく「お互いの見えないところ、見えるところを教え合おうよ」という真心のこもった言葉をいただくことになり、これはラジオだからこそ実現した交流ですね。このエピソード紹介における表現の巧みさとその内容は心の奥底に沁み入りました。

 

特別賞  「エンドウのしゅうかくから学んだこと」 河村 真帆さん
初めての畑でのエンドウ取り、素晴らしい体験になったようですね。普段口にしている食べ物が畑でどのように栽培されており、収穫されるのかご自身で触って感じたことは大切なことだと思います。
実際に手に取り、さやの中に入っている豆が想像以上に大きかったことを河村さんは実感されましたが、まだまだ河村さんが驚くような体験をさせてくれることがたくさん世界に広がっています。初めて触れるものが必ずしも、うれしい、楽しいという感想をもたらしてくれる物ばかりではないかもしれませんが、これから先も興味を持った物に積極的に触れようとする気持ちを持ち続けてくださることを願うばかりです。

 

サポートの部
優秀賞  「新しいコミュニケーション」 大高 翼さん
盲学校高等部に通う大高さんが、盲ろうの転校生とコミュニケーションをとるために指点字を一生懸命学ぼうとする姿勢に、とても心を打たれました。ご家族や先生など、必然的にサポートをしている人とはまた違って、手伝いたい・コミュニケーションをとりたい・友達になりたいという純粋な気持ちからのサポートがここには描かれています。文章の表現も、高校生らしく真っすぐで、修学旅行のバスでの細かな描写などから、指点字を介して少しずつ仲良くなっていく二人の様子や、心が通じ合えた喜びがよく伝わってきました。これからもこの素晴らしい友情を深められ、お二人の人生が豊かになることを願います。

 

佳作 「69才、父さんはもう学校1年生」 山田 政子さん
衝撃的な冒頭の描写をはじめ、一つ一つのエピソードは情景が浮かぶくらい実体験に基づいていることが感じられ、共感いたしました。また、とても丁寧に書かれているため最後まで引き込まれる作品でした。ご主人は素晴らしい先生方と出会い、また仲間の助けもあり、ご自身の努力もあって、一年生の修了証書をもらうことが出来たと思いますが、何よりも政子さんの支えが一番大きかったのではないでしょうか。大きな愛に感動いたしました。そして、政子さんの力強く頼もしくなっていく様子に心打たれました。前向きなおふたりですから、これから先も乗り越えていけると、確信しております。そして、努力は裏切らないことを、あらためて認識することが出来ました。

 

作詞賞  「思い出たくさん」 辻本 唯衣さん
はつらつと元気に過ごしている辻本さんの様子がとても良く伝わってきました。入学して最初は緊張したけれど、宿題をがんばったり、遠足が楽しかったり、ホッチキスが使えるようになったり、学校で体験したさまざまな出来事とその時感じたことが、辻本さんの表情も想像出来るくらいに活き活きと表現されています。そしてこの作品を読む人も元気にしてくれるパワーを感じます。これからもたくさん新しいことを体験されることでしょう。時にはつらいことに出会うこともあると思いますが、その豊かな感受性と前向きな姿勢できっと乗り越え、貴重な経験として積み重ねて成長されることを期待しています。