第14回オンキヨー世界点字作文コンクール 国内部門

本年度は145編の応募があり、作家の玉岡かおるさんを審査委員長とする選考委員会で審査した結果、以下の応募者が入選されました。(敬称略)

 

最優秀オーツキ賞 正賞20万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

成人の部

 

優秀賞 正賞7万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ
佳作 正賞3万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

学生の部

優秀賞 正賞ラクラクキット付きミニコンポ
特別賞(小・中学生対象) 正賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

サポートの部

優秀賞 正賞5万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

佳作 正賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

作詞賞 正賞5万円と、副賞ラクラクキット付きミニコンポ

 

総評  「助け」を考えるきっかけに

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作家 玉岡 かおる(たまおか かおる)氏

 

 点字作文コンクールは、視覚に障害を持つ方々が思いを伝え、発信できる貴重な場だ。同時に健常者にとっても、光を失って暮らすということの現実を伺い知ることができる貴重な機会といえよう。
 今回もまた質の高い作品に恵まれたが、当コンクール史上まれとも言える選考結果になったことをまず報告せねばならない。それは、11歳の少年の作文が最優秀賞に輝いたことだ。
 当初、小中学生の部で選ばれていた永井慶吾さんの「バス通学」は、白い杖で通学する道中を素直に書いた作文。なるほどハンディとはそういうことかと深くうなずかされ、バスに乗り合わせた人たち同様、何か声をかけたくなってくる。だがかけられる声をうれしく思いながらも「できないことを助けてもらう勇気 助けをことわる勇気」について考える姿勢には、審査員一同、唸らされた。
 やさしさとは、助けとは、適度な分量であることが望ましい。だが、足りなかったり多すぎたり、難しい。健常者が障害者とともに暮らすインクルーシブ社会の実現に、この作品が少なからぬ問題提起となったような気がする。
 さて選考会では、まず成人の部で、杉本純子さんの「音と友達に」を選んだ。コンチキチン、で始まる京都祇園祭の風景は、読む人に同じ情景を展開させ、昔見えていた祭りの情景で描く色彩は、見えなくなった日々との対比の中で、なお鮮やかになる。
 佳作の「被爆者の声を6点にのせて」は、長崎の原爆の記録を、視覚障害者のために点字で残そうという貴重な活動に参加した体験を書いた作品だ。海外から来た蔡云さんが、それまで観念的にとらえていた原爆の恐ろしさ、戦争のむなしさを、この作業を通じて痛いほど感じ、「一文も一文字も間違ってはならない」と全神経を指先に集中した心の過程はとことん重い。
 高校生以上が対象の学生の部では、どの作品も、視覚を失うに至った経緯やハンデの大きさがたいして書かれておらず、驚いた。それより、これからの可能性だけに向き合っているわけだ。点字と音楽、コミュニケーションに欠かせない二つのものとの関わりが大きな割合でテーマとなっているのも、特徴かもしれない。
 八染まどかさんの「音楽がくれたもの」は、孤立し友達が持てずにいた時に、心の扉を開いた音楽とによって大きく成長していった足跡が書かれている。選には漏れましたが、飯野拓海さんの「宇宙と音楽と私と」は、目の見える者にも、目を閉じて音楽に乗せて遠い宇宙を見渡してみることの提案があり、音楽のすばらしさを描いた。  これら高校生とは土俵を別にして選ぶ小中学生の部。ここから最優秀賞が出たのは先にも書いたが、どれも、学んだばかりの点字を打つ懸命さが伝わってくる。広瀬由花さんの「出会い」も、音楽との出会いで生きる力が湧いた体験を丁寧に綴ってあった。
 サポートの部では、12歳の渡邊綾乃さんの「くりの実になりたい」が物語性に富み、強いインパクトを刻んだ。若い世代には今後もたくさん書いてほしいと期待する。
 美里美保子さんの「感動の点字」は、視覚障害者と暮らす混沌を明快に描きつつ、点字というツールがそれを鎮めて暮らしやすくするさまが具体的で、わかりやすかった。
 どの作品も丹念に書き込まれ、ご苦労の跡がうかがえて、深い感動の余韻をくれた。また来年も力作を待ちたい。

 


 

作詞賞選評 肯定感と明るさ

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歌人・松村由利子(まつむら ゆりこ)氏

 
 

 視覚障害のある自らを受け容れ、世界を肯定的にとらえようとする作品が多く、胸を熱くして読みました。全体に、口語表現のやわらかさや、視覚以外の感覚に訴えた豊かな表現が印象的でした。
 作詞賞を受賞した田崎博基(たさき・ひろもと)さんの「もしぼくがぼくでなかったら」は、「もしぼくが失明していなかったら」という意味です。あったかもしれない別の世界が描かれ、全編に切なさが漂いますが、「だけど今のぼくは このぼくなんだ」という前向きな姿勢が明るく表現されています。そして、その事実を他の人にも受け容れてほしい、というメッセージがやわらかく伝わってきます。誰しも完全ではなく、どこかに欠けた部分を抱えた存在であることを思うと、田崎さんの詞が多くの人に愛唱されることを願うばかりです。
 ほかには、西田健治(にした・けんじ)さんの「青なの 緑なの」、福井宏郷(ふくい・ひろさと)さんの「100パーセントの私へ」が心に残りました。西田さんは、「あお」という色名の使われる範囲が広く、視覚障害者には不思議に思えることをユーモラスに伝えています。福井さんは、視覚が失われても「100パーセントの私」なのだという自己肯定感を伸びやかに表現しました。

 


 

入賞おめでとうございます

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公益財団法人 日本教育科学研究所
理事長 大朏 直人(おおつき なおと)

 

本年度も、心に響く素晴らしい作品が届けられました。
受賞された皆様に、心よりお祝い申し上げます。

 

最優秀オーツキ賞 「バス通学」 永井 慶吾さん
声をかけてくれる人への感謝の気持ちを忘れず、自分でできることは自分でしよう、ことわる勇気を持とう─ 永井さんの自立した考えに、読んでいるこちらも身の引き締まる思いがしました。手を差し伸べてくれた人の申し出を断るのは、なかなか勇気がいることです。それでも、甘えすぎず自分の足で立とうとする強い意志。胸を打たれました。感謝の気持ちを持ってその思いを伝えれば、きっと相手も清々しい気持ちになることでしょう。通学路でのやりとりが目に浮かび、心が温まります。一人で通学を始めたときは、心細いこともあったでしょう。周囲に助けられながら少しずつ自信をつけていく様子が伝わってきて、頼もしく感じました。これからもぜひ、感謝の気持ちと信念を胸に、何事にも積極的にチャレンジしてください。周囲との関わりを通して世界を広げ、豊かな人生を歩まれることを心から願っています

 

成人の部
優秀賞  「音と友達に」 杉本 純子さん
祇園祭ともなれば、たくさんの露店を回ったり、山や鉾の飾りを見て回ったりと、楽しみが絶えないでしょう。その楽しさのひみつのひとつが「音」。祇園囃子の音色、爽やかな下駄の音を聞いて、風景を感じるという体験は、杉本さんがお祭りを楽しみたいと強く願っていたからこそ叶った体験でしょう。音から色へと記憶の世界が拡がっていった杉本さんの感動が、行間からよく伝わってきました。たくさんの音と友達になるということは、人生の楽しみが増えるということだと思います。お祭りはもちろんですが、どこへ出かけても、耳を澄ませることを大事にしてください。音はきっと、杉本さんの人生を豊かにしてくれます。

 

佳作 「被爆者の声を6点にのせて」 蔡 云(ツァイ・ユン)さん
戦後71年。戦争や原爆の悲惨さを生の声で知る機会が減っている中、ツァイさんの完成された中国語点訳は、日本で起こったことを世界に発信するだけでなく、国境を越えて平和や命の尊さを再認識させる意義あることと感じました。このような被爆者自身による文字や言葉、特に今回点訳された手記は、従来の資料を見る以上に原爆被害の悲惨さ、被爆者の本当の声を伝えることができると思います。戦争による計り知れない被害を日本だけでなく、中国を始めとする他国にも伝えることにより、日本が被害者意識だけに捉われることから脱出し、未来へ、平和な世界をつないでいくことにツァイさんの点訳は貢献されると感じています。ツァイさんの手記が形を変えることなく、多くの中国の方々の手に触れ、平和な世界の実現に寄与していくことを心より願っております。

 

学生の部
優秀賞  「音楽がくれたもの」 八染 まどかさん
音楽が取り持つ縁は素晴らしいものがあります。閉ざされた心に不安を抱えた中、ひとりで歌ったり演奏したりする楽しみと安らぎを見つけられ、ひとりより大勢の人たちと一緒に演奏する喜びから、音楽を通じて気の合う友達が見つかる喜びへと繋がる。音楽とともに人の輪ができ、ご自身を取り巻く世界がだんだん広がっていくご様子にとても勇気づけられ、深い感銘を受けました。
きっとこれからの人生もいろいろな音楽やたくさんの新しい仲間との交流を通じて、より一層輝きが増すことでしょう。どうぞこれからも一歩前へ踏み出す勇気と支えてくれる周りの存在を、大好きな音楽とともに大切に育んでください。

 

特別賞  「出会い」 広瀬 由花さん
自分の好きなことをするために、今いる自分の世界から新たな世界に飛び出す決心をするのは、非常に勇気のいることだと思います。  広瀬さんのこれからの人生のなかで、新たな世界に挑戦したく思う瞬間が何度もあることでしょう。そんな時には、合唱団の団員の方々に受け入れられ、大切な場所を得た今回の経験を思い出してください。恐れずに前に踏み出すことで、広瀬さんにしか送ることができない人生を歩むための一つの糧になるはずです。願わくば障がいを持つ一人でも多くの子に素敵な出会いがあり、自分の好きなことを諦めることのない社会になるようにと思うばかりです。

 

サポートの部
優秀賞  「くりの実になりたい」 渡邊 綾乃さん
親子の確かな「きずな」が心温まるストーリーで表現されていて感動しました。くりを食べると物語が浮かんでくるお父様の夢、素敵です。くりの木図書館の夢はお二人の心を表しているように感じます。困難があってもきずなで乗り越え、幸せに暮らしておられる情景が伝わりました。物事をプラス思考で思い直すことによって前向きな気持ちになる。とても大切な事だと思います。タイトルにもあるように「くりの実」のような存在になりたいという気持ちを大切になさってください。そして世界中が優しくなるよう私も願っております。

 

佳作 「感動の点字」 美里 美保子さん
ご両親が全盲ということで、日常生活において色々と不都合されていることが推測されるなか、それを微塵とも感じないユーモアや笑顔にあふれたご家庭の様子がうかがえる作品で微笑ましく拝見いたしました。また、シャンプーやCDなど、身近な品物と点字との接点に触れ「点字は健常者にとっても、新たな発見と感動に出会える素晴らしいものだ」と表現されていらっしゃいます。この作品が多くの方に届き、点字と出会い、触れあうきっかけになればと切に願っています。

 

作詞賞  「もしも ぼくが ぼくで なかったら」 田崎 博基さん
なんと言ってもとても美しい情景描写が印象的です。赤い車、風にたなびく髪、ゆれるコスモス、夕日が沈む海などなど、日常の何気ない風景が色彩豊かに動きを伴って表現されています。しかしこれは心の目で見た風景であり、実際はかなわない出来事ということにとても切ない感情をかき立てられます。忘れられない人への思慕がさらに切なさを増していますが、同時に今のぼくであることを肯定しておられることに安心感を覚え、全体に渡って穏やかな心地よい感動に包まれます。楽曲としての仕上がりが心から楽しみな作品でした。