本年度は108編の応募があり、作家の玉岡かおるさんを審査委員長とする選考委員会で審査した結果、以下の応募者が入選されました。(敬称略)

 

最優秀オーツキ賞

 

成人の部

優秀賞
佳作

 

学生の部

優秀賞
特別賞(小・中学生対象)

 

サポートの部

優秀賞

 

佳作

 

作詞賞

 

総評  「助け」を考えるきっかけに


作家 玉岡 かおる(たまおか かおる)氏

 今年もすばらしい作品が出そろった。どの作品も前向きで、現状を嘆くことに明け暮れる作品など一つもない。おかげで選考に苦しんだ。その結果オーツキ賞に輝いたのは木川友江さんの「かけがえのない出会いをありがとう」。視覚障害のある木川さんとの交流を通じ盲学校の先生になった健常者の友人を書いた。日本でもインクルーシブ教育が普及し始め、互いに影響し合う成果が見え始めたいうことか。友人の夢の成就を喜ぶ素直さに、こうした友情がもっと広がればいいと願わずにはいられない。

 成人の部・最優秀作の竹内明美さんの「さくら咲く」は、単独歩行での通学の行き帰りが主題。一種、冒険のようにどきどきして読んだ。佳作の関場理生さんの「初めて劇場をみに行った日のこと」は、視覚障害者が観劇すれば、せりふのないシーンでは何が進行しているのかまったくわからない、という新しい発見をくれた。観劇後に語り合える人がみつかってよかったと胸なで下ろす。それぞれ、健常者にはわからなかった状況をうまく伝えてくれた。

 学生の部では、川島健太さんの「はずれてきた鎧」。若者の気負いが伝わり、ご本人の成長が楽しみになる。佳作の大坂ひなたさんの「読書大好き!」はタイトルどおり、読書の楽しさが伝わってくる。どんどん読んで世界を広げてほしい。どちらも点字での応募。

 サポートの部では、審査員の意見一致で「もう一度、プロポーズ」。視力を失った妻と二人で走ろうとする夫の姿が、文章のあちこちに浮かんでくる。がんばる妻にもう一度プロポーズ、という優しさが共感を呼んだ。佳作は福田万里子さんの「チャレンジ」。盲学校の教師として教え子に注ぐまなざしがよく伝わった。

 多様性の時代と言われるが、自分とは異なる他者と出会い、影響し合い、そしてともに成長することこそが人間本来の姿であろう。この作文コンクールの主旨も、単に視覚障害者に書く楽しみの門戸を開くためだけでなく、入選作品を広く健常者に読んでもらう意味ももつ。幸い、すばらしい作品が選ばれた。ぜひ異なる感性を味わっていただきたい。


 

作詞賞選評


歌人 松村 由利子(まつむら ゆりこ)氏

 今回の受賞作「手紙」は、大切な人へ点字で手紙を書く場面と心情が、さわやかに表現された作品です。パソコンやスマートフォンの普及によって、私たちは情報を短時間で得ることにすっかり慣れ、人との関わりもメールやメッセージで済ませるようになりました。「手紙」は、そんな現代でも人を思う心は変わらないことを伝えたところが魅力的です。

 音声入力のアプリを使いこなし、メールを書いたり検索したりする視覚障害者も増えました。「普段点字を打たない僕」と書いているこの作者も、多分そんな若者の一人でしょう。しかし、いつも側にいる「あなた」に向け、メールやメッセージではなく、「一文字一文字間違えないように気持ちを込め」点字で書くところに胸を打たれます。どんな手紙だったのだろう、といろいろ想像させる楽しさもあります。

 点字を打つという手作業のリアリティーが作品世界に奥行きと膨らみを与えており、点字を打つ「音」に聴き入る繊細な感覚も光ります。時間をかけて一文字ずつ「書く」のは、点字も手書きの文字も同じではないでしょうか。現代人の忘れがちな、確かな手ざわりと生きている実感が表現された詩を、たくさんの人たちと分かち合いたいと思います。


 

入賞おめでとうございます

otsukikaityo

公益財団法人 日本教育科学研究所
理事長 大朏 直人(おおつき なおと)

 

本年度も、心に響く素晴らしい作品が届けられました。
受賞された皆様に、心よりお祝い申し上げます。

 

最優秀オーツキ賞  木川友江さん 「かけがえのない出会いをありがとう」
生涯を通して大切に思えるご友人に出会うことができ、そして、その出会いと友情がもたらす夢の実現の物語に感動しました。お二人の会話から、仲のいい様子がはっきりと情景として浮かんできました。誰かとの出会いはその人の人生に影響を与え、そして与えるだけではなく、与えられることの大きさを認識され、これからの人生において大切な糧を得られたことは、素晴らしい経験をされたと思います。私自身も周りにいる友人の大切さを改めて認識させられました。これからも、東京と松本という距離を超え、素晴らしい友人関係を築かれることと思います。

 

成人の部
優秀賞  竹内明美さん 「さくら咲く」
新たな一歩を踏み出したときの孤独感―その一歩に大小の差はあるものの、それは誰もが経験するものと思います。孤独の中で出会った温かい励まし。それは大きな勇気や自信をもたらし、竹内さんの心に希望に満ちた春を呼び込みました。たった一言、ひとつの優しさが周囲の環境の感じ方まで色鮮やかなものに変えてくれたことが、「さくら」の表現の変化から伝わってきます。竹内さんの作品には、お母さまをはじめ、様々な方への感謝の気持ちがあふれており、情景を想像すると多くの笑顔が浮かびます。その気持ちが周りに温かな心の輪を広げ、竹内さん自身で環境を変化させてきたことが分かります。これからも竹内さんの心に咲いたさくらは、きっと満開が続くことでしょう。

 

佳作  関場理生さん 「初めて一人で劇をみに行った日のこと」
見える・見えないに関わらず、人間の生き方について考えさせられる作品でした。人は大なり小なり人と関わり、人を頼って生きており、お互い助け合うことで行動(もっと言えば人生)の幅が広がると思います。ただ、自分の性格やプライドが邪魔をしてうまく人を頼れない・・・というシーンは、誰もが体験したことがあるのではないでしょうか。そのことに気付き、ポジティブに「人は一人では生きていけない」と受け入れられる関場さんはとても強い方ですね。またこの作品を読んで改めて、人に頼られることは喜ばしいことだと思いました。そして、私もより周囲の人を頼りにしよう、と思える素敵な作品でした。
学生の部
優秀賞  川嶋健太さん 「はずれてきた鎧」
自分自身と向き合うことの大切さと、向き合ったうえで自身の世界を広げていく難しさを改めて気付かされる作品でした。作品を読み、川嶋さんに感心したのは担任の先生から言われた言葉に対して真正面から向き合い、どのようにすれば狭い世界から一歩踏み出せるのかを考え、それに対する自分なりの答えを導き出されたことです。ご自身が点字を使ってきた経験を活かし、通訳介助者の資格を取得され、将来の夢は視覚障害当事者として支援をしたいと考えておられ、ただ自分の世界を広げるだけではなく、それと同時に他者への支援をしたいという心が芽生えられたことに感心しました。これからもご自身と向き合い、さらに色々な活動に挑戦してください。その挑戦を心より応援しております。

 

特別賞  大坂ひなたさん 「読書大好き!」
大坂さんが、点字を使いながら1冊1冊、次のページへと新たな物語の1文1文を心躍らせながら大切に読み進める姿が容易に目に浮かびました。学年を経るごとに新しい本を読み重ねていき、自分の好みのシリーズに出会うことは、読書好きにとっては人生の幸せそのものだと思います。小学1年生から点字の勉強を始められて、今まで読み続けられたことからも大坂さんは非常に我慢強く努力を続けられる人だと思います。本に限らず、自分にとって「これが一番好きだ」と言えることは、非常に貴重なことです。これからも点字とともに様々なジャンルの本を読み続け、感受性を磨き、知識を得ることで、自信を持って「これが好きだ」と言える豊かな人生を歩まれることを願います。

 

サポートの部
優秀賞  小松崎潤さん 「もう一度、プロポーズ」
献身的にご主人様が奥様を支えられている様子が目前に浮かぶようなエピソードに感動しました。奥様の夢を叶えるために積極的に協力され、お二人で一生懸命に困難に立ち向かおうとする姿は、真の夫婦二人三脚であると思いました。マラソンでの「きずな」というロープを使ってのエスコートがどれだけ相手の感情に思いを馳せないとできない難しいことかということも伝わってきました。ただ、それによって奥様の隣にいつでもいられるから喜びも苦しみも分かち合えるとお考えになられていることに、奥様への純粋な愛情を感じ取ることができました。二度目のプロポーズで奥様が流された涙は、きっとご主人様の弛まぬ努力に導かれて奥様の心に見えてきた未来の光に対する喜びの涙であったのではないでしょうか。

 

佳作  福田万里子さん 「チャレンジ」
亡くなった同級生の分まで生きるというメッセージの通り、周囲に努力を誇示することなく多くの困難を乗り越え、さらに新しいことにチャレンジするK君の姿に勇気をもらいました。「私は彼をサポートしていると言うよりも彼からたくさんのことを学んでいる」と文中にありますが、きっとK君も同様に福田さんから多くのことを学んだと感じているのだろうと思いました。人間は支え、支えられ生きているということが感じられる作文だと思います。私もK君のように「チャレンジ精神」を忘れず、丁寧に人生を歩みたいと感じました。

 

作詞賞  宇佐亮さん 「手紙」
1文字1文字心を込めて丁寧に点字を打つ様子が思い浮かびました。感謝の気持ちを伝えたい!という強い想いがとても伝わってきます。日頃、私たちはメールなどで簡単に打ててしまう文字ですが、慣れないながらに一生懸命打った文字は気持ちの伝わり方も違うのではないかなと思います。この手紙を受け取った人はとても嬉しいだろうなと想像して温かい気持ちになりました。また、言葉にリズム感もあり、歌にするとどんな感じだろうと楽しくもなりました。きっと宇佐さんの想いは手紙の相手に伝わったと思います。これからもその何気ない笑顔が絶えないことを祈っております。