第16回オンキヨー世界点字作文コンクール 国内部門

本年度は130編の応募があり、作家の玉岡かおるさんを審査委員長とする選考委員会で審査した結果、以下の応募者が入選されました。(敬称略)
最優秀オーツキ賞 

成人の部

優秀賞 
佳作 

学生の部

優秀賞 
特別賞(小・中学生対象) 

サポートの部

優秀賞 
佳作 
作詞賞 
 

総評  「想像力の大きさ」


作家 玉岡 かおる(たまおか かおる)氏
 人は、それがあたりまえと思って慣れてしまうと、別視点から眺めるという発想すらもなくしてしまうものらしい。見えてあたりまえ、読めてあたりまえ。そのため、そうでない人たちがどんなふうに光なき現実を受け止め、普通に暮らすための努力を続けているか、想像もせずにいる。だが想像力の欠如は、案外、罪が深い。そのことに気づかせてくれるのがこのコンクールで出会う作文たちだ。
 成人の部、学生の部は、ともに当事者が自身の経験を通じて書いた作文になる。オーツキ賞の竹保遙(たけやす はるか)さんの「希望の一点」は、読書の喜びを教えてくれた点字に感動しつつ、大学では教材が点訳されていないと授業にもついていけない苦労が書かれ、読む者をハッとさせる。その時、友達が、間違いだらけでも懸命に点字を覚えて助けてくれた。まさに想像力が大きなサポートになったことを喜びたい。
 優秀賞の「盲導犬と一緒に子供たちに伝えてきたこと」を書いた広沢里枝子さんは、ラジオパーソナリティーとして盲導犬とともに数多くの小学校を訪ね、目が見えないとはどういうことかを子供たちに伝えてきた活動の持ち主。毎回、越後の瞽女唄(ごぜうた)で子供たちが歓声を上げるそうだが、私も一度聴きたくなった。
 学生の部では、13歳の三浦光聖(みうら こうせ)さんの「けっして暗闇ではない」は、視覚障害者には絵が好きでも色が見えない、音楽が好きでも五線譜が見えないという現実を、偏りなく再認識させる。それでも暗闇ではない、と言い切る文章には希望があり、読む側もぜひ暗闇に想像力を働かせねばと痛感した。
 サポートの部では星野有加里(ほしの ゆかり)さんの「ラルゴで伴奏、アダージョで伴走」が共感を呼んだ。ピアノを習えなかった祖母の夢をかなえるため、発表会出場まで指導する孫。タイトルの軽快さに反し、苦労も大きかったことだろう。佳作は大川靖子さんの「『おてがみありがとう』がくれたもの」で、視覚障害者の家に招かれた体験を通じ、目が見えなくとも何でもできる事実に「すごい」と驚き、そこに至る努力に思いをはせる子供たちの感性が尊い。
 全作品を評せないのが残念だが、今年もよき作品が出そろった。感謝の一語である。
 

作詞賞選評 「発想の豊かさ」


歌人・松村由利子(まつむら ゆりこ)氏
  現代社会において、目の見える人のほとんどは外界から得る情報の8割以上を視覚情報に頼っています。けれども、そのために気づかない事柄はとても多いはずです。作詞賞の応募作品を読む喜びは、さまざまな音や匂い、手ざわりに満ちた世界の美しさに気づくことなのだと思います。
 今回受賞となった福井宏郷(ふくい ひろさと)さんの「いっしょに暮らそう 明日から」は、発想の豊かさに魅了されました。冒頭からライオンやクジラが出てきて意表を突かれるのですが、それが恋人と「博物館」を巡る場面であることがわかり、どんどん作品の中へと引き込まれます。触覚や聴覚に訴える内容が生き生きとしており、おおらかで前向きなラブソングに仕上がっています。
 今回は、感謝の気持ちを表した作品が多かったのも印象的でした。村上暁子(むらかみ あきこ)さんの「ありがとう」は、買い物や通院など日常の風景を丁寧に描き、「ありがとう」の温かな響きを伝えました。また、中川歩美(なかがわ あゆみ)さんの「六等星」は、六つの突起で文字を表す点字を星にたとえ、「僕の世界で輝いてるよ」と明るく未来に向き合う姿勢が素晴らしい作品です。点字を題材にした作品は毎回寄せられ、教わることも多いです。
 

入賞おめでとうございます

オンキヨー株式会社 名誉会長
大朏 直人(おおつき なおと)
本年度も、心に響く素晴らしい作品が届けられました。
受賞された皆様に、心よりお祝い申し上げます。
最優秀オーツキ賞 「希望の1点」 竹保 遥さん
人は幼いころに自分自身で読んだ本のことは何年経っても覚えているものですが、それが時間をかけてゆっくり読み上げた作品であればなおさらのことです。点字によって本の世界の楽しさを知り、また友人のまりちゃんとの出会いを通じて人の優しさを知り、点字が自分にとって大切なコミュニケーションツールとなっていることに気づいたことは、人生においてとても貴重な経験されたのではないでしょうか。自分が常に周りに支えられていることに対する感謝の気持ちと、今度は自分が子供たちに点字の世界の楽しさ、素晴らしさを伝えることで次は自分が周りを支える番だという、竹保さんの強い気持ちを感じとることができました。点字の一点一点が、夢や希望につながっている―とても素晴らしいことだと思います。

成人の部

優秀賞 「盲導犬と一緒に子どもたちに伝えてきたこと」 広沢里枝子さん
あきらめることは自分への差別だ、という言葉が強く印象に残りました。目の見えないことは特別なことではないのだと、みんなで明るく助け合って生きて行けるのだと、最後の詩はとても胸に響きました。お互いをわかり合い、どうしたらよりよい関係が築けるのか…改めて考えさせられます。それを千回を超える講演活動で伝えていらっしゃる、とても素晴らしい活動だと思います。また、文章から講演を聞いている子供達が目をキラキラさせて笑っている顔が見えそうな、そんな心が温かくなる作文でした。私も広沢さんの三味線の音色を是非とも聴いてみたいと感じました。これからも広沢さんの「変わらない願い」を盲導犬のジャスミンと共にたくさんの人に届け続けて下さい。
佳作 「大切な瞬間」 深潟 睦さん
お父様が生涯を全うされようとするその最後の瞬間まで、どれだけ深潟さんがお父様を思い終末医療に対して思い悩まれたのか伝わってきました。それと同時に、深潟さんご自身、4年前からは全盲となられてしまった今でも平和な生活を日々送っておられ、ご自身と同じ境遇の生徒たちの力になろうと盲学校の教壇に立たれているとのこと、非常に強い方だと思いました。深潟さんのお父様だけではありませんが、残念ながら今の医学では、人の生命が終わりを迎えることに歯止めをかけるのは不可能なことであり、また、不慮の事故も含めていつ命が終わるのか自分では選択のしようもないものです。そのような中、今生きているその一瞬一瞬を取り戻せないものとして自分の人生を満足できるものにするのか、改めてその大切を痛感させて頂きました。

学生の部

優秀賞「けっして暗闇ではない」 三浦光聖さん
三浦さんを心から応援したくなる作文でした。たとえ目が不自由であっても、できることがたくさんあるということを強く感じることができました。しかし、様々な物事ができるようになるまでには様々な困難を乗り越えていく必要があることも綴られており、私には想像できないほどの努力を毎日なさってこられたことでしょう。また、色のイメージについては、イメージを共有できない、言葉では伝えきれないもどかしさというものを感じました。色は人によってそれぞれ持っているイメージが違うこともあり、言葉で伝えるイメージに正解はないからです。いつの日か医療技術が進み、視覚がなくとも色のイメージが認識できるようになって、同じ海を見て、海の色の感想を誰もが言い合える世の中になることを願いたいです。
特別賞「わたしと点字」横山莉世さん
横山さんの作品から点字の難しさや大切さを改めて教えてもらいました。自分の力で文章を読みたいという横山さんの強い思い、それこそが点字を読む難しさを乗り越える大きなパワーになったのだと思います。また、暗い場所でも点字であれば読むことができるという気付き、それは横山さんならではの視点です。その思いや気付きを忘れず、点字の大切さや便利さを横山さんの言葉で広めていくことで、点字に触れる機会を持ち、点字を身近に感じたり大事に感じたりする人が増え、点字の普及に繋がっていくことでしょう。横山さんから力士へのお手紙はその一歩になると信じています。点字に漢字がないからこそ、力士は横山さんの思いを想像しながらじっくりと文章に向かい合うことができることでしょう。

サポートの部

優秀賞「ラルゴで伴奏、アダージョで伴走」 星野有加里さん
視力が殆ど失われ視野狭窄であるお婆様が90歳から丸山さんと共にピアノの練習を始められ、その間苦闘があったにもかかわらず、一度も弱音を吐かれず懸命に練習に励まれたことに感動しました。またお婆様を支えられた丸山さんにおかれてもピアノを教えられる過程で様々な苦悩があったことだと思います。ただ、そうした中でも、お婆様の少女時代からの夢であったピアノ演奏をまるで我が事のように感じ、懸命にその夢を支え、最後までやり通された丸山さんにも感動いたしました。音楽には人に生きる力や感動を与える力があると思いますので、これからも是非お婆様を支え、ピアノの演奏を続けていただければと思います。
佳作「『おてがみありがとう』がくれたもの」 大川靖子さん
「伝えることの尊さ」が感じられるとともに、思わず作者へも応援の拍手を送りたくなる作品でした。視覚障害の奥様に向けて、立体文字のお返事を苦労しながら手作りされる様子には、ご家族のチームワーク、気持ちを伝えたいという真摯な思いが伝わりました。受け取られた奥様にお気持ちがちゃんと伝わり、それをハイタッチで喜ばれる姿にはこちらも思わず笑顔が浮かびました。これからもご家族3人で気持ちを伝えることを尊重し合いながら、明るく、楽しい人生を力強く生きていかれることを切に願っております。
作詞賞 「いっしょに暮らそう 明日から」 福井宏郷さん
情景を思い浮かべながら詞を読ませてもらいました。福井さんが前向きに様々なことを感じとられている様子がうかがえる詞だと思います。短い言葉の中に博物館での手で触った感触、散歩中などに聞こえる様々な音、町の中での人とのふれあいなど、たくさんの宝物が隠されていることが描かれており、福井さんの強く優しいお人柄が感じられ、心が暖かくなりました。そして何気なく過ごしている毎日に素晴らしいことがあるのに、気が付いていないことが多いのではないかと教えてもらった気がします。楽しいことばかりではないかもしれませんが、これからも杖と一緒に明るく歩んでいかれることを心から願っています。